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数字で見る補助金(3)~IT導入補助金

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「数字で見る補助金(2)~小規模事業者持続化補助金」はこちら

IT化支援に特化したユニークな補助金とは?

助成金コラムの第三弾では「サービス等生産性向上IT導入支援事業」(以下「IT導入補助金」と略)を取り上げます。

IT導入補助金は今年で3回目となる比較的新しい補助金です。
その名称の通り、中小企業・小規模事業者の生産性向上を実現するために、業務効率化や自動化を行うITツール(ソフトウェアやクラウドサービス等)の導入を支援するために設けられたものです。
補助対象をITツール導入に特化した点が好評で、第1回(平成29年実施)より人気となりました。

事業スキームは、これまで取り上げたものづくり補助金等と同じです。

国会で承認された予算が、まず事業実施団体に交付され、事業実施団体が公募から補助金の交付まですべての業務を行う仕組みとなっています。
また、IT導入補助金が一般的な補助金制度と異なるのが、ITツールを提供するベンダー等が“IT導入支援事業者”として登録制になっている点です。
中小企業・小規模事業者は、登録されているITツールの中から自社に導入したい商品やサービスを選び、申請をすることになっています。

<図1:IT補助金の事業スキーム>

予算額・採択件数が大きく変動

IT導入補助金は予算額と制度内容が毎回大きく変わっています。
このため採択件数も大きく変動しています。

第1回の平成28年度補正IT導入補助金は、予算額100憶円・補助上限額100万円・補助率2/3という制度内容でスタートしました。
しかし、翌年の第2回では、予算額が5倍の500憶円に一気に増やされました。

このような大幅増額がされた背景には、平成29年12月に政府が閣議決定された『新しい経済政策パッケージ』があるのではないかと思われます。
この『新しい経済政策パッケージ』では、中小企業・小規模事業者等の生産性革命として、「3年間で全中小企業・小規模事業者の約3割に当たる約100万社のITツール導入促進を目指す。」と表明されました。

第2回の平成29年度補正IT導入補助金では、予算額が前年比5倍の500憶円。
その代わり、補助上限額を前年の半分の50万円となりました。
補助金を薄く広く行き渡らせようと考えたのでしょうか、補助予定件数は約13万件という大きな目標が掲げられました。

しかし、蓋を開けてみると、3次公募まで行ったにもかかわらず全採択数は約63,000件で、目標の半分に止まる結果となってしまいました。また、申請された補助対象事業の約4割がホームページ制作だったようです。

全国の中小企業・小規模事業者に対してITツール導入を広く促進しようと意図したものの、思うような結果が出なかったことで、第3回では、制度内容が大きく見直されました。

本来の目的に合った制度に

第3回の平成30年度補正IT導入補助金では、まず予算額が1/5の100憶円に大幅に縮小されました。
補助対象と補助上限額が2種類設けられ(A類型:150万円未満、B類型:450万円)、補助予定件数も約6,000件とかなり絞られました。

この第3回の公募要領に書かれている事業目的でも「中小企業・小規模事業者等における生産性の向上のため業務プロセスの改善と効率化に資するソフトウェアとそれに係る役務などを導入する事業」と書かれており、IT導入補助金の本来の主旨に沿った制度内容に設計し直されたといえるかもしれません。

平成30年度IT導入補助金の実施結果は、採択数が1次公募と2次公募を合計して4,877件。
交付される補助金額にバラつきがあるため、補助予定件数(約6,000件)と単純に比較することはできませんが、前年の結果を踏まえ、中小企業・小規模事業者等の生産性向上に資するという目的は達することができたと言えるのではないでしょうか。

来年度の「IT導入補助金」はどうなるか

IT導入補助金事務局のホームページでは、「中小企業生産性革命推進事業におけるIT導入補助金の位置づけ」として次のように書かれています。

平成30年度補正予算の「中小企業生産性革命推進事業」では、中小企業・小規模事業者のIT化を、IT導入補助金・ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金が一体となり推進します。
IT導入補助金は、多機能・多様なITツールに対応できるよう補助額を増額し、より業務プロセスやバックオフィス業務を中心としたIT化を促進します。

https://www.it-hojo.jp/first-one/

このようにIT導入補助金の役割が定められたことで、来年度の制度内容は基本的には今年を踏襲したものとなり、少し落ち着くのではないでしょうか。
しかし、類型の分け方や申請の手順などが変更される可能性はあるようにも思われます。
ITツールの技術進化や多様化が急速に進んでいるわけですから、毎年見直しが行われるのは致し方ないかもしれません。

また、経済産業省が公表した資料「令和2年度 地域・中小企業・小規模事業者関係の概算要求等のポイント」において、中小企業対策費を前年度よりも269憶円多い1,386憶円を要求しています。
このことから、IT導入補助金の予算額が増えることが期待できるかもしれません。
しかし、一気に数倍アップということは考えにくいでしょう。

IT導入補助金は、小規模事業者持続化補助金等と比べ、申請から交付決定までの審査期間が短く、結果がすぐにわかるというメリットがあります。
いち早く業務のIT化を図り、生産性の向上、ひいては働き方改革を実現したい中小企業・小規模事業者にとって、ぜひ有効に活用したい補助金だと言えます。

<参考>
●内閣府「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)
https://www5.cao.go.jp/keizai1/package/20171208_package.pdf

●IT導入補助金2019ホームページ「中小企業生産性革命推進事業におけるIT導入補助金の位置づけ」
https://www.it-hojo.jp/first-one/

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数字で見る補助金(2)~小規模事業者持続化補助金

助成金コラムの第二弾では「小規模事業者持続化補助金」(以下「持続化補助金」と略)を取り上げます。
前回の記事「数字で見る補助金(1)~ものづくり補助金」はこちら

二つの実施団体に分かれて運営

「持続化補助金」は、従業員5人以下(商業・サービス業)の法人や個人事業主を対象とした補助金制度です。
補助上限額は50万円と少額なものの、機械設備の購入や広告宣伝、展示会出展、試作品開発、レンタル料
など幅広く事業が使えるのが特長です。
使い勝手が良く、また、申請作業も「ものづくり補助金」よりもハードルが低いので、小規模事業者が
最初にトライしてみるのに最適な補助金だと言えるでしょう。

この「持続化補助金」が、他の補助金制度と大きく違うのが、事業実施団体が「日本商工会議所」と
「全国商工会連合会」に二つあることです。
申請者の所在地を担当しているのが商工会議所なのか、商工会なのかによって申請先が異なりますので注意してください。

<図1:小規模事業者持続化補助金の事業スキーム>

事業スキームの基本は「ものづくり補助金」と同じです。
国会で承認された「持続化補助金」の予算が、事業実施団体である日本商工会議所と全国商工会連合会に交付され、それぞれを通じて小規模事業者に交付されるという仕組みになっています。
また、「持続化補助金」の名称の頭にも、 どの年度の予算に基づいているかを示す“平成〇〇年度補正”といった言葉が付いています。

商工会議所エリアと商工会エリアの違い

日本商工会議所と全国商工会連合会の基本的な違いは以下のとおりです。(同一エリアに商工会議所と商工会が一緒に存在することはなく、必ずどちらか一方のみ。)

都市部など人口が比較的多い地域に商工会議所、それ以外の地域に商工会があると言えます。
拠点数は商工会の方が商工会議所の3倍以上あります。
しかし、加入している事業所数は商工会議所が約44万社も多く、その内の小規模事業者の数も商工会議所の方が多いようです。

では、持続化補助金の申請数、採択数も商工会議所エリアの方が多いのでしょうか?
申請数が多いということは、商工会議所エリアの小規模事業者の方がライバルも多くなり、採択率が低く条件的には不利なのでしょうか?

有利・不利はあるのか

平成27年から今年までの「持続化補助金」の実施結果(被災地対象公募のものを除く全国版のみ)をまとめてみました(表1)。


実施結果(応募数、採択数)が、昨年まですべて公表されてはいなかったので不明な項目があります。
予算額のバラツキがあるため、平成29年実施(平成28年度第2次補正)から3年分の結果をベースに考えてみます。

まず、採択数に注目すると、3年連続して商工会エリアの方が多い結果となっています。
平成28年実施分も含めると4年連続で商工会エリアの採択数の方が多くなっています。
実施結果からは、商工会エリアの事業者の方が採択されやすいと言えるのかもしれません。

驚きの超高採択率

では、予算額と採択率の関係はどうでしょうか。予算額が増えると注目が高まり、応募する事業者も増えるように思われます。
応募者が増えれば、狭き門となって採択率が下がる…と、普通は考えます。
平成30年度第2次補正「持続化補助金」の予算額は200憶円(推定)で、前年よりも予算が80憶円増額され、応募も前年より約6千3百件増えました。
採択率が下がるか、あるいは予算増額分を考慮して前年並みの採択率に収まるのではないかと思われましたが、結果は驚くべきものでした。

商工会議所エリアでの採択率が86.2%。商工会エリアに至っては1次締め切り分と2次締め切り分の合計で93.2%という超高採択率となりました。
商工会議所エリアと商工会エリア両方の合わせた総合採択率でも前年比約23%もアップしました。

商工会エリアでなぜこのような高い採択率となったのか、商工会エリアでの公募開始が、商工会議所エリアよりも1カ月近く遅くなってしまったことが影響しているかもしれませんが、明確な理由はわかりません。

しかし、商工会議所エリアでも86.2%という極めて高い採択率となっていることから考えると、商工会エリアだけの現象ではなく、来年度も同様の高採択率になることが十分に予想されるのではないでしょうか。

要求予算額から予想する来年度の傾向

8月30日に、経済産業省より「令和2年度 地域・中小企業・小規模事業者関係の概算要求等のポイント」という資料が公表されました。

この資料によると、経済産業省は中小企業対策費(当初予算)として、前年度よりも269憶円多い1,386憶円を要求しています。その内、中小企業・小規模事業者への支援に割り当てられる予算(生産性向上・デジタル化・働き方改革)も、前年度よりも55憶円増額した424憶円となっています。

この予算案からすると、来年度の「持続化補助金」に割り当てられる予算額は、今年度の200億円(推定)と同額、またはそれ以上の規模になるとも考えられるのではないでしょうか。また、来年度も、今年度並みの高い採択率になる可能性が高いように思われます。

だからと言って、“申請さえすれば採択される”というような考えは禁物です。

上記の経済産業省の資料においても、“小規模事業者の「生産性革命」を実現するため、地方公共団体が地域の実情に応じた販路開拓支援等の小規模企業政策に取り組むことを支援”という方向性が示されており、“生産性”というキーワードは今後ますます重要になってくると思われます。

高採択率と予算増加の予想を前提に、来年度の「持続化補助金」の採択をより確実なものにするためには、“生産性の向上“という視点を事業計画に盛り込まれると良いかもしれません。

<参考>
●経済産業省発表「令和2年度 地域・中小企業・小規模事業者関係の概算要求等のポイント」(2019年8月30日発表)
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2020/pdf/05.pdf

●日商の概要
https://www.jcci.or.jp/about/jcci/index.html

●商工会について~商工会とは~
https://www.shokokai.or.jp/?page_id=45

●全国商工会連合会「商工会と会議所の比較」
・https://www.shokokai.or.jp/?page_id=208
・https://www.shokokai.or.jp/somu/main_kaigisho_hikaku.htm

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